高速バスなのに新幹線のグリーン車よりも高い!
東京─大阪間が片道2万円(税込み。以下同)という驚きの料金の夜行高速バス「ドリームスリーパー東京大阪号」(関東バス、両備ホールディングス)が、1月から運行を始めた。常識外れなのは料金だけではない。座席は僅か11席で、前後左右がパーティションで仕切られ、完全個室になるそうです。2月には高速バス大手のウィラー・エクスプレス・ジャパンも座席数18席の新型バスを運行開始しており、春からはJRバスも、従来より大幅に座席数を減らしたバスを走らせる構想があるそうです。
今なぜ超豪華バスが相次いでデビューするのか?
ドリームスリーパーを開発した両備HDの会長は、「コストだけで勝負してきた高速バスを、移動そのものを快適にする新提案で変えたい」と話しています。背景には、バス業界の厳しい競争環境があり、その一因が、昨年4月に開業した東京・新宿の高速バス発着所「バスタ新宿」があります。それまでバス会社ごとに19カ所もあったバス乗り場が1カ所に集約され、1日平均2.4万人が利用する一大ターミナルとなっています。駅直結で待合室も完備され、利便性は大幅に向上しています。
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しかしこれまでバス乗り場の設備やアクセスの良さで差別化を図ってきたバス会社にとっては、武器を1つ失った形であり、長年運行してきた老舗事業者から新規参入者まで、約120社が同じ土俵で戦うことになった格好です。
これはチケット販売の面でも同様でネット予約が主流になるなか、存在感を強めているのが「楽天トラベル」などの旅行サイトです。複数のバス会社を横断的に検索でき、料金や設備の内容を比較しながら予約できる点が受けています。首都圏と京阪神を結ぶ路線だけでも1日200便近くあるとされ、利用客の目を引くためには、低料金を打ち出すのが手っ取り早い状況ですが、料金面の競争には限界があります。最近は運転士不足が深刻化しており、相次ぐバスの事故で安全対策にも力を入れる必要がありコストを削るのは難しい状況もあります。
ここ数年、目新しいバスが出てこなかった理由としては、安全性の強化が優先されたことや「車両保安基準の大規模な改正が12年に行われ、新シートを開発する際に衝撃試験が必要になるなどコストが上がった」ことなどもあると専門家は語っています。しかし競争を勝ち抜くためには高付加価値路線へかじを切ることになったのです。
出張客を狙う〝動くホテル〟
豪華さから注目を集めるドリームスリーパーは、そのコンセプトもターゲットも、既存の夜行高速バスとは一線を画すしており、「高速バスとしては料金が高いと思われるかもしれないが、ホテルがそのまま目的地に連れていってくれると考えてほしい」と導入理由を説明してます。最近はインバウンド需要の高まりで、ビジネスホテルでも1泊1万円を超えるケースが少なくなく同じ東京─大阪間を新幹線で往復すると、1泊2日で4万円前後はかかります。片道2万円でも競争力があるとする根拠としています。
問題はホテルに匹敵する快適性があるかどうかと言う点になり、座席は通路を挟んで1列ずつで、通路との間だけでなく前後の座席との間にもパーティションがあります。ここまでなら今までも同種のバスはあったが、大きく異なるのが「引き戸を閉めれば完全に個室になる点」が挙げられます。バスの保安基準では運転席から乗客の状況が確認できることが必要だが、今回は各個室の後部にカメラを設置し、運転席のモニターに映し出すことでクリアしています。さらにカメラの位置は寝顔が写らないように配慮されているというそうです。
個室になるメリットは単に他の客に寝顔を見られないだけにとどまらなく、車内での過ごし方が大きく変わります。例えば通常の夜行バスでは画面が光るスマートフォンやノートパソコンの利用はマナー違反ですが、個室ならば他の乗客に遠慮せずに使え、仕事場に早変わりもします。
シートは、NASAの理論に基づいた「ゼログラビティ姿勢」を売りとする独特のスタイルで、背もたれを倒すと座面が深く沈み込み、腰の部分が落ち込んだような姿勢になります。さらにフットレストを上げて水平にすると、〝無重力状態〟を体感できるといい、寝返りを打たずに熟睡が可能とうたっています。またアメニティも充実しており、土足厳禁で、スリッパを利用します。ブランケット、耳栓、アイマスクなど眠るためのアイテムはもちろん、ヘッドホン、ミネラルウォーター、ウエットタオル、歯ブラシも提供される模様です。トイレは温水洗浄機能付きで、それとは別に鏡付きのパウダールームも設置してます。バスルームがないことを除けば、ホテル並みと言っても過言ではないです。
◇ライバルとなる移動手段は…
1.寝台列車
出張に慣れたビジネスパーソンに隠れた人気がある寝台列車。東京行きに限り、大阪駅に停車します。個室寝台で横になれるので疲労感は少なくネットでの予約はできず、駅窓口での購入となります。
2.シティホテル
快適性は最も高いが、最近はインバウンド需要でホテルの宿泊料金が上がり、直前では空室がないこともしばしば見受けられます。片道1万4450円の新幹線と合わせて2万円以内に収めるのは難しくなりつつあります。
これまで高速バスの利用が選択肢になかった人でも、一度は使ってもいいと思わせる設備内容と変貌を遂げており、2月17日に運行が始まるウィラーの「ReBorn(リボーン)」は、東京─大阪間が通常、片道1万800円。高速バスとしては高めだが、新幹線よりは安い料金設定です。
座席は横3列と、高速バスでは標準的であり、シートピッチが広く、1台に18席と少ない仕様です。個室ではないものの大きなパーティションで囲われており、座ってしまえば他の客の存在はほとんど気にならない印象です。飛行機のビジネスクラスで一般的なシェル型のシートで、リクライニングしても前後の客に迷惑にならないのも魅力で、最大で156度まで倒れ、レッグレストを上げるとフットレストとつながり、足を存分に伸ばすことができます。
ウィラー社はこれまで、ピンク色の車体のバスで女性客を開拓し、比率は6割を超えています。しかしReBorn(リボーン)は、車体をシルバーに一新して対抗策を講じています。それは男性のビジネスパーソンを取り込む狙いからというそうです。
さらには東京─大阪間では48年の歴史を持つJRバスの「ドリーム号」も、18人乗りの新型バスをこの春にも投入予定であり、これまで隣席との仕切りはカーテンだったが、新型車両はパーティションに変えてプライベート感を高める予定です。
「車内が快適なのは当たり前。これからは休息できるかどうかが重要になる」とウィラーの社長は語っており、乗っても疲れない高速バスが増えることで、ビジネスパーソンや妊娠中の方や小さい子供連れの親子などの移動手段として有力な選択肢となるかもしれません。
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